レール王カルビ
チョルキルワンカルビサル


 Yajioも、もう年なのか、最近では、何を食べてもあまり感激しないし、あれが食べたい、これが食べたいなんて、思いも無い。旅先で1番の楽しみは食事だなんて、言っていた頃に戻りたい。

 だから、この店にも態々行く事も無かった。もうソウルに行ってカルビを食べなくなって何年も経つ。
 
 もう殆どの日本人は気付いていると思うがやっぱり、焼肉は日本の方が何百倍も美味い。ソウルに行き始めの頃は、毎回、カルビを食いに行った。それこそ、ガイドブックに載ってる有名店は殆ど駆逐してやった。

 最初の何回かはそれなりに満足したのだが、冷静に比較すると日本の焼肉とは別物なのだ。韓国は、タレが甘すぎるのだ。
 そして『つけダレ』が無いので、ヤンニョムカルビを焼いてもパサパサになってしまう。上質な韓牛のセンカルビは確かに美味いが、あれはYajioに言わせれば焼肉ではない。

 現在、日本の牛肉は、世界でも『和牛』として認められ、日本全国には優良のブランド牛が沢山ある。そんなお肉を少し厚めにスライスして、表面をサッと炙って塩コショーで食べれば美味いに決まってる。しかしYajioに言わせればそんなもん邪道だ。
 上質な肉その物を味わいたいなら、ステーキにしろ、塊で食うんだ。

 焼肉は、何と言ってもタレが命だ。日本でも、こだわりの美味しい焼肉屋は、どの店も『もみダレ』『つけダレ』、それこそ門外不出の『秘伝のタレ』となっている。
 間違っても『つけダレ』を醤油さしに入れて、テーブルに並べて『ご自由にどうぞ』なんて考えられない。

 もちろんロースと内蔵系ではもみダレも違う、つけダレも多分醤油ベースだと思うが、しょっぱく無くて、甘すぎない。このつけダレが韓国のお店には無いのだ。

 韓国の人は『肉に味が浸み込んでいるんだから、つけダレなんていらねえだろ』と思っているのかどうかは知らないが、つけダレには味を付ける他に意味があるのだ。
 日本の焼肉は油が多い、しかも焼きたてはその油がとても熱い、しかし、一度ツケダレに漬ける事で、油が落ち温度も下がりバランスの良い味になるのだ。

 Yajioが日本で、良く行く焼肉屋さんは、注文を聞いてから肉をスライスして、もみダレと合わせるのだ。決してタレに肉を漬け込まないのだ。だから注文してから肉が出てくるまで異常に時間が掛かる。
 韓国のヤンニョムはタレに漬け込んであるので、肉の色もなんか悪く見える。

 本来、日本の焼肉は、在日の人達が考え出した料理だ。戦後、貧しいながらも祖国の料理を日本で再現したのが現在の日本の焼肉だ。
 もちろん、そのころは、上質で新鮮な牛肉など、手に入らなかったろう。
当然、塩、コショーでサッパリ肉本来の味を堪能して下さいとは、行かなかった。
 だから『もみダレ』で、味を調える必要があったのだ。それは、決して粗悪品を誤魔化す為では無い。れっきとした焼肉と言う料理なのだ。

 それは、Yajioの幼い時も同じだった。YajioがYajioになる前から焼肉は高価な食事だった。と言うより外食自体が贅沢だったのだ。
 あの頃の焼肉屋は、大体、夜からの営業でメニューも今ほど多くない。肉質も、Yajio達が行っていたお店程度ではたかがしれてる。
 しかし、Yajioはこの世の中にこんな美味い物があるのかと、思うほど焼肉が大好きだった。焼肉の香ばしいさと、甘いたれ、だけどサッパリして、ご飯に良く合った。
 
 焼肉についてのYajioの熱い思いを語ってしまったが、ソウルには、弘大と新村の間に『キチャキル コギコルモッ=線路沿い焼肉通り』がある。以前は、通りの真ん中を線路が横切り踏切があった。
 ここは昔から地元の人達で賑わう、安くて美味しい焼肉屋さんが多かったらしい。

 Yajioも以前から知っていたが、韓国での焼肉に魅力を感じなくなっていたので今まで一度も行った事が無かった。今回、弘大に行くので最後のチャンスと思い行ってみた。

 現在は鉄道は地下鉄になり、踏切は無く、線路跡は工事中の為、塀で囲われている。それでも焼肉屋さんは今でも健在で数多く営業しているらしい。

 そんな中、今回Yajio達が行ったお店はここだ。『チョルキルワンカルビサル』今では、『レールワンカルビ』で通じる。ここは昔、線路の側にあったので、この名前になっているらしい。

 場所は、弘大と新村の間の線路沿い。Yajio達は弘大側から線路の跡地に沿って新村方向に、お店を見つけながら歩く、線路跡は工事中の金属の塀で囲まれているが、一見してそれと分かる。
 目指す、お店は線路沿いから少し住宅街に入った所にあった。

 店構えは、お世辞にもきれいとは言えず、古ぼけたビルだ。1~2階がお店なのだが、1階のお店には、壁や扉、窓などの囲いが一切無く、外から丸見えのフルオープン。床は、油にまみれた剥き出しのコンクリート。
 もちろん、エアコンの類いは無く、工場で使うような換気扇のファンが扇風機代わりに唸りを上げて回転している。

 その中でドラム缶を利用して作った様なテーブルに、セットされた炭火で網焼きして食うのだ。事前情報が無ければドン引きするお店だ。

 Yajio達が訪問した時は他に先客が2組、何時もの事だが、ほぼ貸切状態。お店のアジュマに2人だと告げると、適当にどうぞと、言われ席に着く。
 メニューは、いたってシンプル、牛か豚の味付き、味無し、Yajio達は牛の味付きカルビを4人前も頂いた。もちろんビールと焼酎もだ。

 この店では、キムチ、野菜類はセルフサービスだ。(日本人のYajioには、このシステムの方が安心する。食べもしない料理を沢山持ってこられても勿体無いし、手を付けない料理のその後が気になってしょうがなかった)

 肉自体は、カルビの中オチや切り落としみたいで、肉の歯ごたえがしっかりあり、適当な油もあるのでYajioの好きな部位だ。味付けも含めてこの価格ならかなり良いと思う。
 ソウルの焼肉屋(牛カルビ)は最近、オシャレになり値段もかなり高くなったので、気の合う仲間と、ガッツリ肉を食いに行くなら、ここはお奨めのお店だ。
お店自体は、この通り。
韓国では珍しいおしぼり。 炭火で焼く 山盛りカルビ、これで2人前。
これは、セルフ。 このつけタレが最高だ。 この手前のサラダが美味い。
テンジャンチゲはサービス。味付けはかなり濃くて、しょっぱすぎ。
線路跡は工事中の為、塀で覆われている。
『キチャキル コギコルモッ=線路沿い焼肉通り』は、健在だ。
新村の街並み。