セマウル号に乗ろう

東鶴寺を目指して
02年の夏、韓国に来て三日目。今日は、ソウルから少し足を伸ばしてテジョンに行く。テジョンまではソウルから鉄道を使って韓国の優等列車セマウル号で行く。チケットは着いたその日の夜に予めゲットしておいたので、出発の時間に合わせてゆっくり行けば良い。
Yajio達の乗る列車は『朝の7:00発のプサン行きセマウル9号』だ。当然途中下車になるわけだが、ソウルを出たらテジョンまではノンストップなので最初に停まった駅で降りれば良い。時間にして1時間半チョットの列車の旅だ。
この列車に乗るのは2回目で前回は終点のプサンまで行った。プサンまでは片道4時間かかるので、さすがに日帰り旅行は辛かった。
実はこのテジョンまでの日帰り旅行を計画したときから、セマウル号のチケットが必ず取れるのか少し心配していた。夏休みの週末となるとかなり前から、手配しないとチケットが取れないとなにかに書いてあった気がする。
今では、日本からインターネットで予約が出来るらしいが、そこまでして行きたいわけでもない。成り行きでチケットが取れれば行くし、無ければ何処か他でもいいのだ。
そんな気持ちで着いたその日にソウル駅にチケットを買いに行くと案の定、往復のチケットは無かった。仕方なく行きは列車、帰りは高速バスにする事にした。韓国は地方行きの高速バスが発達していて、むしろ鉄道より便がいいくらいだから、行くだけ行けば帰りはなんとか成るだろうと思い行きのチケットだけをゲットしておいた。
しかし当日ソウル駅に着いて、もしかしてと思い何時ものツーリストインフォメーションで帰りのソウル行きのチケットが有るかと聞いたら、あっさり有りますとの事だった。
やっぱり!Yajioの思った通り当日キャンセルが出たのだ。これで当初の予定通りのスケジュールとなった。
ソウルでは、Yajio達の列車の旅に定番となったビールとスルメを買って列車に乗りこむ。しかしこの列車のシートは快適である。新幹線のグリーン車以上だ。車内販売も新幹線なみに、飲み物、弁当、各地の特産品のお土産までひっきりなしに売りに来る。(しかし、ものすごく早くワゴンを押しているので、買いたい時はちゅうちょする事無く声をかける事。この辺は日本の気配りがまだ上か?)
それに日本では滅多に無い食堂車が連結されているから、少し長旅でも気分転換も出来る。今回の列車は4人がけのテーブル席では無く、両サイドの窓側に横一列のカウンター席が付いた、ロッテリア営業のスナックカーだったが、これに乗って韓国を縦断して車窓の景色を眺めるだけでも充分楽しめる。
セマウル号に乗る事自体は、けして難しくは無ない。チケットは前売りも、当日も席が空いてる限りはツーリストインフォメーションで簡単に買う事が出きる。とくに気を付けなくては成らない事は別に無いが、セマウル号は基本的に日本の新幹線のように(先頭車両+中間車両+先頭車両)で1編成になっているのだが、乗る時間帯によって(先頭車両+中間車両+先頭車両)+(先頭車両+中間車両+先頭車両)の2編成で1つになっているタイプがある、鉄道用語ではなんとかと言うのだろうがYajioには解らん。(丁度日本の東北新幹線+山形新幹線みたいな組み合わせ)
この場合、違う編成の車両に行く事が出来ないので、自分の座席が有る編成に乗らないと、セマウルはオール指定席なので座席が全部埋まっていると座れなくなる。乗りこむ時に、各ドアに案内係のお姉さんが居るからチケットを見せて確認してから乗ること。
テジョン(大田)到着
テジョンの駅を出ると、さすがに暑い。日本より日差しがキツイようだ。
さてどうする?当然インフォメーションで聞く。右も左もわからん所で考えている時間は無い。案内のお姉さんに『東鶴寺』までのバス乗り場は何処でどのバスに乗れば良いか聞く。
何時ものように、なんとか都合の良い解釈で解ったような気持ちになる。とりあえずバスは102番、乗り場は真直ぐ行って右側。これだけ分かれば充分。言われた通り駅を出て真直ぐ進。
しかし!道が無い!!いきなり地下道になっている。それもソウル市街にある地下のマーケットだ。どうする?問題無い。地上でも地下でもとにかく真直ぐ進めば良いんだ、そして適当なところで右側の出口から地上に出れば良い。そして地上に出るとバス停が有るんだ。
そう信じて地上に出る、すると確かにバス停はあった。しかも102番のバスが走ってくる、ラッキーあれか!?Yajioは念の為バスを待っている若者に聞く。
『このバスは鶏竜山に行くの?』
間違えない!このバスだ、乗り込め、今日もついてる。
途中、儒城(ユソン)温泉の街中を通ったがガイドブックに書いてある通り普通の地方都市、日本の温泉街とは程遠い、ここは温泉だと事前に知らなければなんて事の無い街だが、バスの窓から見た印象ではホテルは沢山在りそうだ。今度はここを拠点にして、もっと遠くに行ってみたい。

鶏龍山国立公園
キェリョンサン(鶏龍山)は標高845.1mの山で四つの滝や古寺が沢山あると、日比谷の韓国観光公社でもらった『韓国の旅ガイド』書いてあった。(このガイドブックは非常に良く出来ていて、観光地のガイドはもちろん、ソウルからの鉄道(主にセマウル号)の時刻表、料金、所要時間。高速バスの料金、所要時間、始発、終発、深夜の時刻表。主な都市のホテルの住所、電話番号、温泉、サウナ、マッサージの案内等、実に詳しく書いてある。
それに小さくて、薄いからジーパンのポケットに入ってしまう。しかも毎年新しいものが発刊され、なんとこれがタダなのである。さすが韓国は太っ腹だ!Yajioはソウルに行く時は、何時もこれを利用させてもらっている。どっかのくだらない店とのタイアップ記事ばかりの、バカ高いガイドッブクよりよっぽど良いぞ!)
今回はその古寺の中の1つ尼寺のトンハクサ(東鶴寺)を目指す。
102番のバスは1時間弱で終点の鶏龍山の入口に着いた。いつものように皆のあとについて歩くと、両側に土産物やがある通りに出た。ちょうど日本の山寺にある参道の様だ。売っているお土産も特産の農作物や民芸品等、日本の田舎の観光地と変わらない。おまけにセブンイレブンまであり、人もたくさん来ている。
するとここは韓国では、かなり有名な観光スポットなのか?参道を更に進んで行くと今度は両脇に食堂、呼び込みのおばさんが威勢良く客引きをしている。
Yajioもなにか食べたかったが、ご馳走は後にしてとりあえずはトンハクサを目指す。今回も参拝料か、入山料なのか解らないが山の入口で料金を支払う。
ここからは軽いハスキングコース、良く整備された緑の中の山道を登っていく。勾配はあまりきつくない。道に沿って渓流が流れている真夏だというのにとても涼しい。この渓流はとても綺麗で魚が泳いでいて、チビッ子達は水浴びをしている。まるで日本にいるようだ。秋の紅葉時期にくれば最高だろう。
程無くしてトンハクサに到着、なんてこと無い、直ぐに撤収。もともと信仰心などに縁の無いYajioだ。それよりYajioは食物に興味がある。ここでは何を食わせてくれるのか、楽しみだ。例の食堂に行ってみよう。

渓流の食堂で
食堂は通りに面して軒を連ねている、表から見ると何てこと無い、日本の観光地に良くある冴えない食堂なのだ。中を見るとうっす暗くてホントさびれている。人も入っていなし、こんな所で食事をする気にもなれない。これが最初の印象だった。しかしこの食堂がやってくれた。
覚悟を決めて入った店のおばちゃんに進められるまま、狭い店の中を通りぬけ裏に出ると、そこは別世界、広く開けて渓流が流れている。正確には店の裏7、8m下に渓流が流れている。
来る途中、行きは気づかなかったがこの通りの食堂のメインは裏側だったのだ。どおりでこんなに人が沢山居るのにどの店も表から見るとガラガラだった分けだ。
案内されたは席は、川の上に特設に造ったテラスというか、舞台というか『海の家』みたいで、更にその下ではチビッ子達が沢山、水浴びしている。皆大人数のグループで大人は上の席で一杯やっている。まるでYajioの幼いころの町内会の海水浴状態、そうここはまさに『川の家』なのだ。そう思うと何故かホッとした。最初は何か一品軽く食ってサッサと帰ろうと思っていたが、どうやら腰を落ち着けてゆっくり出来そうだ。
そういえば周りも鍋を囲んで昼間からベロベロの宴会状態。こうなったらYajioも唯一の日本代表として負けるわけにはいかない。
『とにかくビールと真露!それに何か食いもん、もてこんかい!』
何時ものようにYajioは心の中で、500WのアンプのボリュームをMAXにして叫んだ。が、しかしYajioはハングルは読めんし、話せん!こんな田舎に日本語メニューが有るわけも無く、いきなり弱気になる。
それにしても周りのコヤツラときたらこの暑い中、鍋を囲んでグイグイいってやがる。
『負けてたまるか!確かにワールドカップでは日本より良い成績だったかもしれんが、それがどーした!日本人をなめんジャネーッ!』
『オラー!そこのアジュマー早くこちにコーッ!喉が乾いたまずはビールだ!そして真露、そして食物はあれだーッ!』
向かいのオヤジ達一行の真っ赤に染まった鍋を指差して注文してやった。どうだビッビッただろう、日本人がこの暑さの中あんなに真っ赤に染まった激辛鍋を注文するなんて。
するとこのアジュマは、おもむろにメニューとりだして
『バカこくでネーニダ!あんたら日本人が、あんな辛いもん食ってどうすんニダ。悪い事はイワネェーニダ、このおばさんに任せるニダヨ』
『あんたら日本人は胃腸が弱いんだから、あんな辛いもん食ったら、ゲリピーになるニダ。あっさりした鶏肉でも食べて栄養付けるニダ、もう少し強くなったら辛い鍋を食べに来るニダ、わかったニダ』
Yajioのオーダーはあっさり却下されてしまった。韓国のアジュマは手強い。そして出て来た料理は鳥鍋。なんて料理かは知らないが言ってみればサンゲタンのもち米が入っていないバージョン。
鍋に鶏肉を一匹丸ごとでは無く食べやすいようにパーツ事に切った物を入れて、朝鮮人参、ナツメ、ニンニク、ネギ等の薬草みたいな物を入れて、あとは食べるときに自分で適量の塩味を付けて頂く。
たしか韓国では、夏場の滋養にサンゲタンを食べると聞く、おばさんは、日本からの旅で疲れているYajioの為にこの料理を勧めてくれたのか?確かにこの暑さの中さっぱりした鶏のスープは最高美味かった。おかげで真露が2本、つづけて今回が始めてのマッコリまでいかせてもらいました。
もちろん韓国はどこでも料理を注文すれば、メインの料理の他に沢山のサイドメニューが並ぶ。これだけ食って二千円チョットだ。今日はアジュマの顔を立ててやったが、今度来る時は、あの辛い鍋をガンガンいってやると思うYajioだった。
帰りのバスで
帰りのセマウル号の時間が決まっている為、そろそろテジョン駅に戻らなければならない。バス乗場に行くとなんとバスが何十台も止まっている。行きに着いた時は乗って来たバスしかなかったのに、周りの駐車場も満車状態だ。
ここはチョットどころではなく、かなり有名な観光スポットだったのだ。しかしこれだけバスがあると、どれに乗れば良いのか?
とりあえず102番のバスを探す、すると102番はこれまた沢山ある。どれが一番早いバスなのか?良く見るとその中にアイドリング状態で扉を締めているバスが1台ある。このバスは間もなく出発する為にエアコンを効かしているのだろう。外は熱くてたまらんので、そのバスに乗り込んで待つ事にする。
少しずつ座席が埋まっていつの間にか満席になると、運転手が来てバスは出発した。さっき飲んだ酒が利いてきて直ぐに眠ってしまった。この後、今回の旅で一番困る事になるなんて、この時は思いもしなかった。
ひと寝入りして起きたら、乗客は三分の一ぐらいになっていた。そろそろ乗ってから小1時間たた頃だった。行きは約1時間ぐらいかかったのでそろそろテジョン駅に着く頃だ。
しかしなんだか雰囲気が違う。Yajioは意外に方向感覚は良い方で、一度通った道は、たとえそれが外国であろうとわりかし覚えている方だ。
でも今、窓から見えてる景色に見覚えが無い。そうこうしている内に乗客は全て降りてしまい、残るはYajio達のみ。しかも1時間はもうとっくに過ぎている。
『まさか!寝てる間にテジョン駅を過ぎてしまったのか?』
あれだけ大きいターミナル駅だ、満員だったバスの乗客で、その駅を利用する者がYajio達だけなんて考えられない。それともこのバスはテジョン駅行きじゃなかったのか?
『テジョン行きバス?』そもそもそんなバス有るのか?Yajioはテジョンが大きい駅なので102番のバスはテジョンが起点でトンハクサが終点とばかり勝手に思っていた。だから帰りは当然102番のバスにのればその逆だから、終点はテジョンなのだと決め付けていた。
しかし行きにかかった時間はとっく過ぎてるし、周りの景色もなんか郊外の住宅地だ。行きにはこんなところ絶対に通っとらん。Yajioの思いは確信に変わった。
『やっぱり寝てるうちに通り過ぎてしまったのだ!』
慌てて前の経由地を書いたプレートを今更ながら確認する。何時もは、そんなもん、どうせハングルで書いてあって読めもしないんだから見向きもしないのだが、今は必死だ。持っている資料の中からテジョン駅のハングルを見つけて、経由地の書いてあるプレートと睨めっこ。
『有った!間違い無い手元のテジョンのハングル文字とプレートの文字は同じだ』
という事は間違い無くこのバスはテジョンを通る、しかしそれは終点では無い。テジョンは経由地が書いてあるプレートのちょうど真ん中辺。
もし通り過ぎているなら、早めに行動しなければ。Yajioはバスのドライバーに聞いてみる。
Yajio 『あのーテジョン駅はもう過ぎましたか?』
ドライバー『あー!ナンダニー』
Yajio 『ですからテジョン駅は?』プレートのテジョンを指差し聞く
ドライバー『そうニダ、それがテジョンニダ』
Yajio 『あのですね、Yajioはテジョンで降りたいですけど?』
ドライバー『あそー!解ったニダ』
本当に解ってくれたのだろうか?非常に不安になる。こんな時、Yajioの連れは全然役に立たない、ただのデクになる。今はもう二人しか乗っていないバスの一番後ろに座って、たぶん寝ている。
こんな時に限って時間が長く感じる。さっきのドライバーとのやり取りではYajioがテジョンで降りたいとの事は理解してくれたみたいだが、やっぱり不安でまた聞いてみる。
Yajio 『あのーテジョン駅はまだ過ぎてませんよね?』
ドライバー『あーッ!お前はテジョン駅で降りてぇんだろ!だったら黙って座わっとれ!』
実際はそんなきつくは言っていないんだろうが、Yajioがあまりテジョン、テジョンと騒ぐもんだからドライバーはコヤツは何者とでも思ったのだろう。
そうこうしているとバスは大きな通りに出た。
『うぉーこの通りは見覚えがあるぞー!』交差点を曲がると正面に間違い無い、あれがテジョン駅だ。
Yajioは嬉しくてドライバーに指をさして聞いてみた。
『ハイハイそうだよ。あれがテジョン駅だよ』と笑っていた。Yajio達は無事にテジョン駅に到着した。
なぜ行きと帰りの所要時間が違ったのか?なぜ行きと違う道を走ったのか?今でも解らない。東京ですら『都バス』に等、乗らないのに、よその国の路線バスに乗るなんて、本当に疲れる。帰りのセマウル号では爆睡してやる。
テジョンの駅に着く時間は初めから余裕を持っていたので、窓口でもっと早いセマウル号にチェンジしてくれと頼むと、1本早い列車にチェンジしてくれた。それと何故か払戻金が幾らかきた。セマウル号の料金は一律ではないのか?それともチェンジした列車はセマウル号ではないのか?
実際に列車に乗るとやっぱりセマウル号だったが、ソウルまでノンストップでは無く停車駅が多いタイプだった。
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